2009年06月13日

Tiger in my love/鬼束ちひろ 歌詞解釈

歌詞を全文乗っけると流石に長くなるので、こちらから見てください。







この曲の第一印象は、圧倒的な「拒絶感」。
いわゆる欝ソングの方向性は、だいたい「分かってよ、ねえ分かってよ、助けてよ」という救いを求めるものか、或いは「もうだめだ、すべては終わりだ」という絶望に二分されると言っても過言ではない。
ベースがそこにあって、自分や他人による励ましで上向いていったり、どん底に落ちる一方だったりと展開していく。
鬼束ちひろの他の代表作「月光」も、強引に言ってしまえばそれに当てはまる。

「Tiger in my love」は違う。これは決して救済への叫びではないし、塞ぎこんだ暗闇も見えない。
溌剌と、彼女は「拒絶」している。口語的に言うなら「あなたには分からないでしょう。私はこんなになってるのに。いいよ、それで。それが分かっただけでも幸せだわ」そんな感じ。

俺は、理にかなわないものは嫌いである。アニメとかを観るときでも、ヒロインが主人公に惚れ込む理由づけがあればあるほど
その作品にのめりこむ。ハーレムは気分が悪い。
要するに、面倒くさくて手間のかかる奴なのだ、俺は。何事にも理屈をはさみたがる。
そんな俺からすれば、例えばミスチルだとかYUIとかBUMPなどのメジャーな歌手・グループの歌う「欝」「悲痛な叫び」「訴え」は、ぜんぜん納得できなくて
イライラする。音楽性自体は嫌いじゃないけど、歌詞がなんともうそ臭いのである。
彼ら/彼女らは、疲れた人ばかりの現代社会の隙間に、なんとも巧妙でそれっぽいコトバを投げかけ、まあ畢竟CD買わして
ライブに動員してるんだわ。あれらに感動する人はそれでいいかもしれんが、俺は概ね彼らの訴えに心動かされない。

救済は、そんなに容易いものじゃない。簡単な甘い言葉でどうにかなるような問題なら、悩んだりしない。
だったら開き直れ。相手なんか理解できないし、私の現状をお前が見えるものか。そんなに分かりやすいものであってたまるか。
そういった痛快さが「Tiger in my love」にある。

前置きに近いものばかり長引いてしまった。歌詞の引用に移る。

正直なところ、
>泥を塗っては冠を与えたりいつも寝場所なんて無かった
>「言葉など要らない」と言って誰かが森に導いてくれれば
鋼の様な皮膚が裂けて妖精が出て来るとでも思ってるの?

ここらへんはメタメタすぎて、俺にもさっぱりわからん。だが、「こんなんなってるんだよ!」という、必死さみたいなものだけ伝わってくる。他人から見えてないけど、
彼女の心の中身は、確かにそんな風になっているんだろう。それについては、後述される考えをはさむとちょっと理解できるようになるかもしれない。

言うまでもなく最も強調されている一節は、合計で4回も歌われている
>貴方には決して見えたりしないでしょう?
である。
貴方には決して理解できないでしょう?と言い換え可能だと思う。だから嫌だ・許して・こんな社会だめだ・助けて・もう背負いこまなくていいんだよ
そんな甘言は、この一節の前後にまったく存在しない。ある意味決め台詞のように、彼女はこれを言い放っている。
分からないからこそ。
>一人だって気付いた瞬間在り余る悲しみは柔らいだ
人は誰だって、孤独に気づいて体感したら悲しくなるものだと思ってた。でも、そうじゃないのだ。
理解しえない「自分」がいて、無駄な努力に苦しむ必要がないと分かった瞬間、むしろ悲しみは容認の光にあてられる。
だから人と関わらないとか、そんな断絶は歌われていない。すばらしいと思う。
甘く妥協したコトバで、「人は分かり合える!」とかの軽々しい文句が勘違いを誘うんじゃ、それこそ本当の理解への道は閉ざされる。
「分かり合えない」ってきっぱり言い切るから、そこには絶望も希望もなく、むしろ前向きで爽快なものが始まっていく。
俺がすきなのは、そこだ。

もうひとつ語っておくべきこととして、タイトルの一部になっている"Tiger".確か彼女が一番好きな動物なんだけど、それについての俺なりの解釈がある。
歌詞のメタフィジカルな部分は、彼女自身の内面が虎に変貌していると仮定すれば、まだなんとか理解できる。
ここで最も重要なことを述べる。他の解釈サイトやブログを見たら、「虎はつよいものの象徴」という前提がおかれている。もしくは凶暴。
それは違う。
高校の現代文の教科書に載っている「山月記」をご存知だろうか。
アレでの「虎」のかたちと、Tiger in my loveにおいて鬼束ちひろが化けた「虎」は同質だと考えられる。
「虎」は、弱いのだ。臆病者である。百獣の王・ライオンは原野を駆け回っている
イメージを伴うが、虎は森の茂みに佇んでいる。厭世的で、実は脆弱。それを皮膚や牙・爪が外見だけを取り繕っている。
「虎」は、その人の弱さ・醜さであり、それを覆い隠す外見の化身・象徴である。その観念を当てはめれば、上でつらつら述べてきた歌詞・歌全体の雰囲気とマッチするんじゃなかろうか。
彼女は、自分の中の強さじゃなく弱さ・「虎」が、どうしようもなくなっている(「>この牙は熱さを忘れる事さえ出来」なかったり)ことを認め、その上で前を向こうとしている。
最も価値のあるDEATH&REBIRTH、美しい再生の過程が本作では描かれているのではないか。

俺が書いてきたことは、けっこう自分勝手な解釈とか妄想をはさみまくって、整合性もあまりとれていないかもしれない。
しかし、俺は彼女の渾身の「Tiger in my love」をこのように感じ、咀嚼した。そしてこれからも愛しつづけていく。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
因みに、本文中にて俺はミスチルとBUMPとYUIを槍玉にあげた。いい加減な甘言遣いであり、本質を見ていないと。

俺が今までにちゃんと視聴したのは、
ミスチル「しるし」「さよなら2001年」「NO BORDER」「タガタメ」「Tomorrow never knows」「終わりなき旅」
BUMP OF CHIKEN「天体観測」「ラフメイカー」「乗車権」「ギルド」「ロストマン」
YUI「again」「It's happy line」「I remember you」


だけであり、いずれも彼らの発表したものの半分以下である。
それだけの印象で決めてしまっているので、俺の偏見をひっくり返してくれそうな曲があったら、誰か紹介していただきたい。
いま挙げた曲についても「おいテメーどこみてんだ、あれはそんなに浅い曲じゃねえよ!」という突っ込みがあったら是非きかせてください。


【関連する記事】
posted by 熊りん at 23:05| Comment(3) | 鬼束ちひろ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>泥を塗っては冠を与えたりいつも寝場所なんて無かった
(扱下ろしては持ち上げたり、心安らぐ時は無かった)

>「言葉など要らない」と言って誰かが森に導いてくれれば
(偽る必要の無い世界へ誰かが導いてくれれば
- 森は本来の姿(自然体)で在れる場所)
>鋼の様な皮膚が裂けて妖精が出て来るとでも思ってるの?
(心の扉が開いて無邪気な私が現れるとでも?
- 鋼の様な皮膚は心の傷の深さを物語っている
外界への防衛ラインである柔らかで温かな皮膚が
冷たく硬い鋼となる必要がある程に過酷であった)

「導いてくれれば」とあるので、上記2文が自問自答に聞こえてしまう
鋼は重く息苦しく自分の体温をもわからなくさせていたのでは?
トラウマ(過去)を脱ぎ去れれば・・・
無邪気な私が・・・もしかしたら・・・
でもそれは幻想であると言い聞かせている様な

しかし次に「結局このしなやかな心にかなうものなんて無い」ときますから・・・どうなのでしょうか

>貴方には決して見えたりしないでしょう?
この一文には様々な段階を感じた
自己防衛⇒拒絶⇒優越
それらを昇華した時、解放という恍惚へと行き着くのでは・・・

>結局このしなやかな心にかなうものなんて無い
行き着いたような気もしますが、
この文章も自分へ言聞かせているような気も

メタメタとされていた部分を
自分なりに解釈してみますたw
ところで新曲どうでした?
Posted by 山 at 2009年06月10日 01:22
歌詞見ながらYouTubeで2回聴いた。素晴らしい。

「貴方には決して見えたりしないでしょう?」の「貴方」というのは心の中の虎を指していると思った。


BUMPなどの歌詞は確かに、聴いた人が単純に喜ぶようなもので、言ってしまえば「嘘くさい」と俺は最近やっと気づき始めた。
Posted by TK345 at 2009年06月10日 20:53
>>山さん
メタメタの解釈から、おれの本領よりも深いところをついてますな。
自己防衛→拒絶→優越の流れというのは凄く納得がいく。
自問自答ではなく、何だか甘い言葉を投げかけている他人を、思いっきり対象にしてる気がします。
自問自答だったら、この歌全体が自家発電になっちゃうような。うっとおしい他人がいるからこそ、
自分の姿もみえてきて成り立つ歌詞かなーと。

>>TK345
あなたがBUMP OF CHICKENを見限る日がこようとは。音楽性自体は嫌いじゃないんですけどねー。
山さんに対しても言いましたが、「貴方」はあくまで他人な気がします。
Posted by 熊りん at 2009年06月11日 22:39
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